バタフライの指導 (6)P.12

『イルカ飛びからのバタフライ指導』
*イルカ飛びをドルフィンスルーと言う場合もあるようです。

〜はじめに〜
私が過去の大会でバタフライ6時間を泳いだ時のイメージがまさにイルカ飛びを連続で行なうバタフライでした。楽で気持ち良いイルカ飛びを如何に連続で行なうことが出来るか…そのような感覚やイメージを持つためには以下の練習も役に立つはずです。下に紹介している練習ドリルのほとんどは1セットの動作を終えたら一旦足を床につけて立ちます。後半ではバタフライに近づけるために足を床に着けず連続で動作します。

〜うねりで進む感覚を〜

(注)はじめのうちは1から5まで順にステップを踏む。慣れてきたら任意の段階から練習を行う。

1■イルカ飛び

床を蹴り体重を利用しながら体をもぐらせ、背中を反りながら浮上する。床を蹴った勢いで潜る→水面近くに浮上する感覚を覚える。このときにアゴを引いて体を潜らせる。

2■イルカ飛び掻き

スタート後、一度下方に向いた手先が背中を反ることで水面に近づく。水面上に両手が出る直前に掻きはじめる。そこまでじっと待ち、タイミングをつかむ。腰まで水を掻きそこでストロークを終えて立つ。リカバリーは行わず1セットで終え、それを繰り返す。掻き終えた時に肩(脇)が水面上にしっかりと出るように。肩が天井に向くように胸を張る。

3■イルカ飛び掻き戻し

上の動作にリカバリー動作を加える。同じく1セットで一度立つ、それを繰り返す。上の練習にもあるが肩がしっかりと出てから肘や手首を水面上に出す。この動作は同時に行わず若干のタイムラグが生じる様に。肩→肘の順に、肩が出てから0.2秒後に肘先を出すように。このタイミングを覚える。初心者の場合はリカバリーは水平に行わず戻した手先がオデコの上にくるよう弧を描く様に。息継ぎ時、アゴは直ぐに引かずに目線はなるべく正面に向ける。アゴを極端に直ぐに引くと肩が前方にグッと傾き(柔軟性が無いと特に)腕が抜けにくくなる。

4■イルカ飛び掻き戻し二連続

床を蹴る代わりに第一キックを入れて二連続で「イルカ飛び掻き戻し」を行なう。イルカ飛びで終える動作を徐々にバタフライへと近づける。バタフライを泳ぐイメージよりもイルカ飛びを連続で行なう意識をもって、上で練習してきた動作を崩さぬように。

5■バタフライスイム真ん中まで→さらにバタフライスイム25m

上の二連続が出来ればそのイメージを持った状態で、さらに連続で行なう回数を増やしてバタフライに近づける。真ん中の12.5mまでイルカ飛びのイメージ通りにいけば、距離を増やして25mを目指す。この一連の練習を行う前にストローク回数を数えておけば、変化をより一層感じやすくなる。
最初のうちは体の水没(※)など考えず「イルカ飛びでキョリを稼ぎながら如何に楽に進むか」ということのみを意識すると良い。大人の場合であれば25mを8掻きで泳ぐことが出来た後に競技規則に則った泳ぎ方を意識すると良い。段階を踏むということだ。(※)競演競技規則のいわゆる水没ルール

以上。

バタフライの指導 (5)P.11


長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

□5
『さいごに』

難題を攻略する上で必要な“思考の素”が備わっていないとバタフライのリカバリー習得途中で詰みます。どんなに素晴らしい配合や手順で味付けしても不揃いにカットしていたりアク抜きや臭みとりをしていなかったら不味い料理の完成です。バタフライ習得においても最初の下準備やひと手間は重要なのです。

また、指導する側が難題を攻略する気概を強く持ち続ける必要があります。「子供はみーんな、バタフライは腕が上がらない。それはパワーがないのだろう。きっとそうだろう。」このように、目の前の事実を固定されたものとして受け入れると眠っている子供の能力を引き出す事は出来ません。

私が若い頃に違和感を覚えたのは「なんでウチの子は両腕が水面上に上がらないのですか?」と質問した保護者に対して生徒の顔を見ながら「たくさん食べて、体を大きくして、もっとパワーをつけなきゃ」と上司が言っていました。運営的に見れば上手く質問の対応をしているのかもしれませんが、指導者目線からすると“棚上げの判断”が早い気がします。どうすれば今よりももっと上手くなるだろうか?!という気持ちを常に持ち続けないと、指導者が子供の限界を決めてしまう事になります。諦める・諦めないの判断はとても慎重に行うべきです。

 

・・・つづく(2024年4月頃に続きを投稿予定)

ご覧いただきありがとうございました。

千葉隆礼

バタフライの指導 (4)P.10


長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~


□4
「水面上で両腕を前方に戻すバタフライ」が2ストローク連続で出来るようになったら

2ストローク連続で両腕が水面に着かずにリカバリーできるようになったら…いわゆる“2連続蝶々”が出来るようになったら□3『効果的な練習』⑤片手バタフライ2項目目の片手・両手交互バタフライを中心に練習するのも良いでしょう。

さらに、上記の練習と並行してバタフライスイムを2ストローク連続→3ストローク連続→4・5・6・・・と徐々に数を増やしていきます。このバタフライスイムは最初短い距離で構いませんが、フォームが乱れない程度にほぼフルパワーで練習することを推奨します。その際、息継ぎは毎回行います。

上記の練習を重ねて、15mほどの距離を“蝶々”で泳げるようになったら、今度はストローク回数を数えながら練習します(ストローク回数を減らすことを目的とする)。第1キックを粘り強く打ったり、その局面での蹴伸び姿勢(※1)を意識すると、第1キックでより遠くまで進むことができます。このようにしてストローク回数を減らすと、後半でバテにくくなります。目安ですが小3・4年であればバタフライ25mを掻き数15回前後で泳げるよう目標設定してください。この時スタート動作はけのび3~4m程度でけのび後の水中ドルフィンはやりません(※2)。

はじめの段階では、目標とするリカバリー動作が出来ていれば第1キックの蹴り下げ,蹴り上げ局面で体が多少水没していても構いません。まずリカバリーが安定して出来るようになってから体の一部を常に水面上に出した状態で泳ぐ・・・このように段階を踏んで指導するのが良いでしょう。初心者に対していきなりどちらも両立させるのは難しいと思います。

練習を重ねて20mほどの距離を目標である“蝶々”で泳げるようになったら、浮上する際に体を持ち上げすぎていないか?必要最低限の力で泳げているか?というのを意識しながら指導します。目安は肩(脇の辺りまで)が水面上に出るまで、これ以上水面上に体が出ているようならパワーを若干抑えて泳いでも問題無いはずです。このように必要最低限の力で“蝶々”が表現できるようになれば25mのスタートからゴールタッチまで美しい羽根を魅せながら泳ぎ切る事が出来るでしょう。

(※1)…両手は重ねず、肘はしっかりと伸ばして抵抗を減らす

(※2)…これは私千葉の個人的な好みです。スタート後に水中ドルフィンで距離を稼ぐというのは理想的なリカバリー動作習得という目的から若干外れている気がするというのが個人的な考えです。偏った思考かもしれませんが…。まだ、この段階ではこれを選択しません。スタートではコレを意識してスイム中ではココに注意して…というのはビギナーにとって情報が多すぎる場合もあると思っています

・・・つづく

バタフライの指導 (3-2)P.9

長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

『効果的な練習』


③平泳ぎストローク
(常時顔上げ,ノビ無し,プルブイ有りor軽いバタ足)

1.バタフライのキャッチ動作習得をねらいとする。とにかく水の重さを感じて掻けるように。

2.掻き始めでは手のひらを外側に向け、内側に掻き込むにつれて手のひらの向きもやや内側となる。手のひらの面は動かす方向にしっかりと向ける。

3.腕の動作は前方から後方に動かすのはもちろんの事だが、↑2のように腕をねじる動きが体の浮上に有効。パチンカーの「パチンコ行く?!」の手の動きに似ている。
(※)千葉はパチンカーではありません。

4.この練習では“うねり”動作を伴わない。ノビも無し、プルブイの使用に慣れていない場合は代わりにバタ足をしても構わないが、キック動作が主体とならないように。テンポよく掻き進む。

5.まずは口が水面下に潜らないように5~10mを目指す。それがクリア出来たら徐々に距離をのばし、最終的には常に肩が水面上に出ることを目標とする。ただし、波の影響を受けるので、断続的に肩が水面上に出る状態が限界だと思う。


④陸上でバタフライストローク

1.所謂、両手S字ストロークからリカバリー動作までをスローモーションで行い、何度も反復練習する。慣れてきたら徐々にテンポを上げながら“ねらい”のフォームを崩さず練習する。この“スローモーション”と、徐々に“テンポを上げる”を何度も行き来して、無意識レベルで“ねらい”のフォームを習得するまで反復練習する。
(※)子供はどうしても早く腕を動かしがちなので、「ゆっくり」という指示が届かない場合は、具体的に1ストローク○○秒で、という指示を出す。スピード違反というワードを使うと子供は喜ぶ。

2.掻き始めは平泳ぎストローク、プッシュ動作では手首を徐々に反りながらㇵの字を描くように
*掻き始めは手首を少し倒し、プッシュ動作に向かって徐々に反るようにすると、常にプールの底に手のひらが向くようになる

3.プッシュ動作を行いながら両方の肩甲骨を中央に寄せる

4.リカバリー動作では力みがあっても良いのでしっかりと肘をのばす
*これに慣れたら不要な力みを抜く

5.リカバリー中の両腕はなるべく背中側で行う
*この時両手が腹側を通ってしまうとリカバリー途中で両腕が着水する動きとなる。始めは窮屈に感じるかもしれない。



⑤片手バタフライ

1.汎用性の高い練習なので、手足のタイミングや“うねり”動作など必要に応じて意識する箇所を変えながら練習する

2.両手バタフライが理想の動きに近づいたら(8mほど泳げるようになったら)、両手バタフライ,片手バタフライを1掻きずつ交互に行って泳ぐ
※片手・両手交互バタフライ

3.リカバリー動作が25m安定して出来るようになれば、今後はスイム中に体の一部が常に水面上に出るよう、レベルに応じて練習目的を変える
(第1キックで腰を、第1キック蹴り上げで両足のカカトを、第2キックの打ち下ろしに合わせて頭部が水面上に出るように)

 

・・・つづく

バタフライの指導 (3-1)P.8

長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

□3
『効果的な練習』


①ドル平(1ストローク2キック)


1.腕動作は平泳ぎ,足動作はドルフィンキック

2.一般的なバタフライと同じく、第2キックに合わせて息つぎ

3.ストロークと第2キックのタイミングや第2キック前の体の反り、第2キックの蹴り幅を得る動作習得に効果的

4.バタフライの導入としてこの練習を用いる。うねり動作を意識させたい時は1ストローク3キックでも良い。


②顔つけFlyストローク
(うねり無し,浮上せず,プルブイ有りorバタ足)


1.水平姿勢をずっと維持したままFlyストロークのフォーム習得「主にリカバリーの肘伸ばし」を狙いとした練習

2.Flyストロークを1回行ったら息つぎの為に平泳ぎストロークを行い、交互に繰り返す

3.リカバリーの際、腕は水面を引きずり、ヒジをしっかりと伸ばしながら3~5秒かけて前方に戻す。この時、ヒジを伸ばすために力みがあっても良い(肘を伸ばすことがねらいの場合…4.についても同じく)

4.この練習では「リカバリーの肘伸ばし」という目的を見失ってはいけない。うねりは要らない、浮上することも必要無い、両腕が水面を引きずっても良いので、とにかく「リカバリーで肘を伸ばす」この一点のみに焦点をあてる

5.1~4の動作がスムーズに行えるようになったら、水中での腕の動き(*1)や肩甲骨の動き(*2)にも注目する

(*1)キャッチ・プルは手首を少し倒し、手のひらを外→内と向けながら平泳ぎストロークに似た動作となる。プッシュは両腕で“ㇵの時”の軌道を描くように。この時、手首は徐々に反らせる。(バタフライにおいて浮上する際は、手のひらの面をプールの床に向ける必要があります)つまり、ストローク中に手首の角度は徐々に変化するということです。

(*2)プッシュ動作は肩甲骨を中心に寄せながら。このようにすると肩が水面上に出やすくなる。腕は肩の動きにつられるので、水面上でのリカバリー習得に繋がる。


・・・つづく