バタフライの指導 (5)P.11


長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

□5
『さいごに』

難題を攻略する上で必要な“思考の素”が備わっていないとバタフライのリカバリー習得途中で詰みます。どんなに素晴らしい配合や手順で味付けしても不揃いにカットしていたりアク抜きや臭みとりをしていなかったら不味い料理の完成です。バタフライ習得においても最初の下準備やひと手間は重要なのです。

また、指導する側が難題を攻略する気概を強く持ち続ける必要があります。「子供はみーんな、バタフライは腕が上がらない。それはパワーがないのだろう。きっとそうだろう。」このように、目の前の事実を固定されたものとして受け入れると眠っている子供の能力を引き出す事は出来ません。

私が若い頃に違和感を覚えたのは「なんでウチの子は両腕が水面上に上がらないのですか?」と質問した保護者に対して生徒の顔を見ながら「たくさん食べて、体を大きくして、もっとパワーをつけなきゃ」と上司が言っていました。運営的に見れば上手く質問の対応をしているのかもしれませんが、指導者目線からすると“棚上げの判断”が早い気がします。どうすれば今よりももっと上手くなるだろうか?!という気持ちを常に持ち続けないと、指導者が子供の限界を決めてしまう事になります。諦める・諦めないの判断はとても慎重に行うべきです。

 

・・・おわり

ご覧いただきありがとうございました。

千葉隆礼

バタフライの指導 (4)P.10


長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~


□4
「水面上で両腕を前方に戻すバタフライ」が2ストローク連続で出来るようになったら

2ストローク連続で両腕が水面に着かずにリカバリーできるようになったら…いわゆる“2連続蝶々”が出来るようになったら□3『効果的な練習』⑤片手バタフライ2項目目の片手・両手交互バタフライを中心に練習するのも良いでしょう。

さらに、上記の練習と並行してバタフライスイムを2ストローク連続→3ストローク連続→4・5・6・・・と徐々に数を増やしていきます。このバタフライスイムは最初短い距離で構いませんが、フォームが乱れない程度にほぼフルパワーで練習することを推奨します。その際、息継ぎは毎回行います。

上記の練習を重ねて、15mほどの距離を“蝶々”で泳げるようになったら、今度はストローク回数を数えながら練習します(ストローク回数を減らすことを目的とする)。第1キックを粘り強く打ったり、その局面での蹴伸び姿勢(※1)を意識すると、第1キックでより遠くまで進むことができます。このようにしてストローク回数を減らすと、後半でバテにくくなります。目安ですが小3・4年であればバタフライ25mを掻き数15回前後で泳げるよう目標設定してください。この時スタート動作はけのび3~4m程度でけのび後の水中ドルフィンはやりません(※2)。

はじめの段階では、目標とするリカバリー動作が出来ていれば第1キックの蹴り下げ,蹴り上げ局面で体が多少水没していても構いません。まずリカバリーが安定して出来るようになってから体の一部を常に水面上に出した状態で泳ぐ・・・このように段階を踏んで指導するのが良いでしょう。初心者に対していきなりどちらも両立させるのは難しいと思います。

練習を重ねて20mほどの距離を目標である“蝶々”で泳げるようになったら、浮上する際に体を持ち上げすぎていないか?必要最低限の力で泳げているか?というのを意識しながら指導します。目安は肩(脇の辺りまで)が水面上に出るまで、これ以上水面上に体が出ているようならパワーを若干抑えて泳いでも問題無いはずです。このように必要最低限の力で“蝶々”が表現できるようになれば25mのスタートからゴールタッチまで美しい羽根を魅せながら泳ぎ切る事が出来るでしょう。

(※1)…両手は重ねず、肘はしっかりと伸ばして抵抗を減らす

(※2)…これは私千葉の個人的な好みです。スタート後に水中ドルフィンで距離を稼ぐというのは理想的なリカバリー動作習得という目的から若干外れている気がするというのが個人的な考えです。偏った思考かもしれませんが…。まだ、この段階ではこれを選択しません。スタートではコレを意識してスイム中ではココに注意して…というのはビギナーにとって情報が多すぎる場合もあると思っています

・・・つづく

バタフライの指導 (3-2)P.9

長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

『効果的な練習』


③平泳ぎストローク
(常時顔上げ,ノビ無し,プルブイ有りor軽いバタ足)

1.バタフライのキャッチ動作習得をねらいとする。とにかく水の重さを感じて掻けるように。

2.掻き始めでは手のひらを外側に向け、内側に掻き込むにつれて手のひらの向きもやや内側となる。手のひらの面は動かす方向にしっかりと向ける。

3.腕の動作は前方から後方に動かすのはもちろんの事だが、↑2のように腕をねじる動きが体の浮上に有効。パチンカーの「パチンコ行く?!」の手の動きに似ている。
(※)千葉はパチンカーではありません。

4.この練習では“うねり”動作を伴わない。ノビも無し、プルブイの使用に慣れていない場合は代わりにバタ足をしても構わないが、キック動作が主体とならないように。テンポよく掻き進む。

5.まずは口が水面下に潜らないように5~10mを目指す。それがクリア出来たら徐々に距離をのばし、最終的には常に肩が水面上に出ることを目標とする。ただし、波の影響を受けるので、断続的に肩が水面上に出る状態が限界だと思う。


④陸上でバタフライストローク

1.所謂、両手S字ストロークからリカバリー動作までをスローモーションで行い、何度も反復練習する。慣れてきたら徐々にテンポを上げながら“ねらい”のフォームを崩さず練習する。この“スローモーション”と、徐々に“テンポを上げる”を何度も行き来して、無意識レベルで“ねらい”のフォームを習得するまで反復練習する。
(※)子供はどうしても早く腕を動かしがちなので、「ゆっくり」という指示が届かない場合は、具体的に1ストローク○○秒で、という指示を出す。スピード違反というワードを使うと子供は喜ぶ。

2.掻き始めは平泳ぎストローク、プッシュ動作では手首を徐々に反りながらㇵの字を描くように
*掻き始めは手首を少し倒し、プッシュ動作に向かって徐々に反るようにすると、常にプールの底に手のひらが向くようになる

3.プッシュ動作を行いながら両方の肩甲骨を中央に寄せる

4.リカバリー動作では力みがあっても良いのでしっかりと肘をのばす
*これに慣れたら不要な力みを抜く

5.リカバリー中の両腕はなるべく背中側で行う
*この時両手が腹側を通ってしまうとリカバリー途中で両腕が着水する動きとなる。始めは窮屈に感じるかもしれない。



⑤片手バタフライ

1.汎用性の高い練習なので、手足のタイミングや“うねり”動作など必要に応じて意識する箇所を変えながら練習する

2.両手バタフライが理想の動きに近づいたら(8mほど泳げるようになったら)、両手バタフライ,片手バタフライを1掻きずつ交互に行って泳ぐ
※片手・両手交互バタフライ

3.リカバリー動作が25m安定して出来るようになれば、今後はスイム中に体の一部が常に水面上に出るよう、レベルに応じて練習目的を変える
(第1キックで腰を、第1キック蹴り上げで両足のカカトを、第2キックの打ち下ろしに合わせて頭部が水面上に出るように)

 

・・・つづく

バタフライの指導 (3-1)P.8

長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

□3
『効果的な練習』


①ドル平(1ストローク2キック)


1.腕動作は平泳ぎ,足動作はドルフィンキック

2.一般的なバタフライと同じく、第2キックに合わせて息つぎ

3.ストロークと第2キックのタイミングや第2キック前の体の反り、第2キックの蹴り幅を得る動作習得に効果的

4.バタフライの導入としてこの練習を用いる。うねり動作を意識させたい時は1ストローク3キックでも良い。


②顔つけFlyストローク
(うねり無し,浮上せず,プルブイ有りorバタ足)


1.水平姿勢をずっと維持したままFlyストロークのフォーム習得「主にリカバリーの肘伸ばし」を狙いとした練習

2.Flyストロークを1回行ったら息つぎの為に平泳ぎストロークを行い、交互に繰り返す

3.リカバリーの際、腕は水面を引きずり、ヒジをしっかりと伸ばしながら3~5秒かけて前方に戻す。この時、ヒジを伸ばすために力みがあっても良い(肘を伸ばすことがねらいの場合…4.についても同じく)

4.この練習では「リカバリーの肘伸ばし」という目的を見失ってはいけない。うねりは要らない、浮上することも必要無い、両腕が水面を引きずっても良いので、とにかく「リカバリーで肘を伸ばす」この一点のみに焦点をあてる

5.1~4の動作がスムーズに行えるようになったら、水中での腕の動き(*1)や肩甲骨の動き(*2)にも注目する

(*1)キャッチ・プルは手首を少し倒し、手のひらを外→内と向けながら平泳ぎストロークに似た動作となる。プッシュは両腕で“ㇵの時”の軌道を描くように。この時、手首は徐々に反らせる。(バタフライにおいて浮上する際は、手のひらの面をプールの床に向ける必要があります)つまり、ストローク中に手首の角度は徐々に変化するということです。

(*2)プッシュ動作は肩甲骨を中心に寄せながら。このようにすると肩が水面上に出やすくなる。腕は肩の動きにつられるので、水面上でのリカバリー習得に繋がる。


・・・つづく

バタフライの指導 (2-6)P.7

長時間バタフライからみた一般児童に対するリカバリー指導~

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『指導の際の主なポイント』

①水泳は水を動かすスポーツ
②腕を主体としたクロール
③“うねり”は大きく、第2キックは蹴り幅を大きく
④リカバリーの軌道は水平にしない
⑤その他細かな部分は個々のオヨギに合わせてアドバイス
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⑤その他…個々のオヨギに合わせてアドバイス


①~④だけではバタフライにおける「蝶々」の表現が出来ないケースもあります。その場合は個々のオヨギを見ながらそれぞれの泳者に向けたアドバイスが必要になります。以下、代表的なものを挙げてみました。

(1)肩が水面上に出てから、肘や手先を水面上に

練習生はどうしても「両腕を水面上に」と強く思ってしまいがちです。体全体が水没している状態で両腕上げようとすると水を上方に掻き上げる動作となり、体は逆に沈んでしまいます。肩が水面上に出てから(脇が水面まで浮上してから)→肘→手先 と抜く事で“浮上する勢い”を失わずにリカバリーが出来るようになります。肩→→肘→手先…ちょっとしたタイミングの差をつくるイメージです。

(2)第2キックは蹴り幅を得て、それを押し込むように(跳ね上げない)

前述の③において「“うねり”は大きく」と申し上げましたが、この大きな“うねり”ができると第2キックのキック幅を得ることが出来ます。キック幅が大きいと水を動かす時間を充分に得ることが出来ます。水を動かしている時間が長いほど体が浮上する時間を充分にとれます。

ただし、注意が必要です。この第2キックの際に両足を下方に打ち込んだところから(バタ足の様に)直ぐに跳ね上げてしまうと、水を上方に蹴り上げる動きとなります。体は水を動かした方向とは反対側に動くため、蹴り下ろした直後に蹴り上げる動作を行うとリカバリー中に体が沈んでしまいます。つまり第2キックでは「キック幅を大きくとり、さらに下方へ押し込む」。蹴り下ろした最下部分で両足を0.3~0.5秒位とどめるとリカバリーを行うために必要な”肩が水面上に上がる”動作を得る事となり、バタフライにおける”蝶々”を表現しやすくなります。

(3)掻き動作は加速させる

掻き動作は腕全体で水を充分に捉えながら行う必要があります。この動作が上達すると腕全体に水の重みを感じるようになります。この水の重みを感じながら掻く事ができると体は反作用を得て水面上に上がってきます。しかし、ここで油断してはいけません。体(頭や肩)が水面上に出ると、今度は重力の影響で体はプールの底へ沈もうとします。両腕を水面に触れずリカバリーを行うためには、掻いて水面上に持ち上げた体が(特に肩)沈む前に、水面下から腕全体を素早く抜く必要があります。ですので、バタフライの掻き動作は、キャッチ・プルでは水の重みを感じながら掻き、プッシュからフィニッシュ・抜き上げに向けて徐々に掻きの速度を上げるのが良いでしょう。

 

(4)両腕と両足のタイミング

ブログ:バタフライ 長距離・長時間 ~日記14~と類似内容となります。
http://swimschool.jp/2017/06/08/longdistancebutterfly14/

こちらでは一般児童のバタフライ指導についてのお話しですので、非力な子供に対する指導を想定する必要があります。つまり、腕・足のどちらかではなく、腕と足の両方の力を合わせて浮上を目指すケースもあると心づもりしなければいけません(※)。

(4)の表題にもどり、具体的には「腕の掻き始めからフィニッシュ」と、「第2キックの蹴りはじめから打ち下ろし」、それら両方の時間を合わせます。③でも述べていますが「小さく素早く鋭いキック」を行うと、比較的ゆったりと動く腕動作とのタイミングが合いません(腕の掻きの途中でキックが終わってしまう)。そこで、“うねり”を大きくし第2キックの蹴り幅を得ることでストロークとキックのタイミングがピッタリと合うようになります。
(※)②「腕を主体としたクロール」にあるように、どちらかというと足動作よりも腕動作に重点を置きます。具体的には「腕動作:足動作」=「6:4」あるいは「7:3」です。

 

・・・つづく