泡って、浮くね。 1

 

~前置き~

10年以上前…教室を開催した時よりも前の話。私はアルバイト講師をしていた。

当時の私は土曜日10:30~のクラスでバタ足グループ10名強を担当。バタ足よりも更に初級の水慣れグループでは当時のヘッドコーチ(以下、ヘッド)が3名程の生徒を受け持っていた。

私が担当するグループは、ヘッドの水慣れグループから「けのび」「水中ジャンプ」をクリアした子供達が割り当てられる。特に「けのび」は恐怖(*)を克服する種目でもあるので、その恐怖心が消えなければクロールの練習も満足に出来ない。クロールの練習には最低条件として「けのび」のクリアが必要である。
(*)フワッと浮く感覚に慣れるまで恐怖を抱く子供が一定数いる

ある進級テスト日に、「けのび」が満足に出来ていないのに合格認定された生徒を目撃してしまった。実はそれ以前にも何度も何度も、出来ていないのに合格=みなし認定の現場を目撃し、その子供たちを私が責任をもって中身の伴う実力を身につけてもらう指導が何年も続いた。もう、そのような“タイムループ”に辟易していた。

もちろん、私は裏で愚痴をこぼしながらも、ヘッドの“みなし教育法”に従う人間では無い。私に認定偽証をさせるには時給1000円では足りず5億円ほどの金を積み上げる必要がある…というバカな話は置いておき、当時の私は自主的無償で「月1指導者勉強会」「週1実技練習会」「自主練発表会」を開催し、何とか“タイムループ”からの脱出を試みた。だが、上手くいかなかった。力不足だった。

話を戻し、上述の進級テスト日に「けのび」のみなし認定を受けた生徒がプール脇のジャグジーに浸かっている隙に、ヘッドコーチに向かって強く進言した。

『誤った判定をした。と本人に謝罪して認定証を取り下げてもらいたい。』

「へ?何言うてんの?あの子、浮けるで。」

『……(そんな嘘で私を騙せるとでも?!)』

もう、タイムループから脱却するには私とヘッドの目の前で例の生徒に「けのび」をしてもらうしかなかった。今でもこれは良い方法とは言えないが……ジャグジーに浸かってホッとしている生徒に声をかけ、もう一度プールに戻って「けのび」を見せてもらった。案の上、何度チャレンジしても両足が床から0.2秒離れただけで立ってしまう。強い恐怖心を感じている様子が容易に判断できた。たが、ヘッドは強引に認定証を手渡してしまった。もちろん、事務所に戻れば私とヘッドは…えぇ、皆様のご想像通りで…。

私は、ヘッドの更に上司である施設責任者に進言して、例の生徒とバタ足クラスの両方の責任の所在を千葉に置いてもらった。さらに私にサポート講師をつけてもらい、その講師にグループ本体を、例の生徒は千葉がマンツーマンで指導し、短時間で集団の泳力に追いつくプランを立てた。

つづく→コチラ

*このシリーズは2週間に1度のペースで6話まで投稿予定です